全国算数・数学教育研究大会(群馬)大会
                                                          中学校部会 コンピュータ分科会
                                                      群馬県小野上中学校 上原 永護

          研究主題「学習活動を活性化するための教材開発        」
                  〜コンピュータによるシミュレーションを用いて〜

T.主題設定の理由

 現在、中学校で学んでいる生徒達が活躍する21世紀には、大きな技術革新や社会変革がなされていることが予想される。情報化の進展に伴う高度に発達した社会においては、自ら考え、判断しなければならない。そこで、思考力や判断力の育成がせまられている。
 このような能力は、教師主導による教え込みの学習からは十分には育たない。生徒自身の内側から学ぼうとする意欲を持って取り組んだ経験の中で身についてくるものである。つまり、基本的に学習意欲を育てる指導の工夫が大切になってくる。 また、数学に対する「難しくてやってもできない」という意識が多くの生徒に抱かれがちである。そのため、思考活動を伴う学習になると、受け身になりがちで、一部の生徒を中心に学習が進められることも少なくない。 そこで、まず、「やってみたい」という意欲を持たせることが大切になってくる。そのためには、「なぜだろう」「おもしろい」「わかりやすい」「そうか」等の生徒の心を揺さぶる要素をもった教材の研究が不可欠である。
 また、単に生徒の興味・関心をひくだけでなく、原理や法則等を実感を伴った理解にまで高め、学習することの楽しさや素晴らしさが体験できるようにしなければならない。
 その具体的方法には、適した素材の教材化、教育機器等を活用した課題提示方法などがある。 OHPや具体物を使った説明教具などは、実物演示であるため、その性質などを理解する上で説得力があるが、その表現方法の限界や製作費用等の問題がある。
 新しい教育機器であるコンピュータは、多くの生徒達が興味・関心をもっている教育機器であり、多くの可能性をもっている。しかし、デジタル化して処理したり、間接的に表現するため、多少説得力が欠ける等の短所もあるが、その短所に留意して、その特性であるすぐれた計算機能、図形表示機能等をはじめ様々な機能を生かすことにより、一層効果的な指導が期待できる。
 今まで以上に帰納的に数学を構築していく場面や、概念などを実験的に把握する場面を多く持つことができ、思考のための道具として使うことにより数学的事実の観察や数学の構成過程を感得させるのに有効な手立てとなる。
 このように、コンピュータは、学習意欲を育てるとともに数学の理解や思考活動を助ける上で大いに活用できる。
 ところで、コンピュータの持つ特色ある機能のひとつにシミュレーションがある。多くの生徒達がコンピュータに興味・関心を持っている機能であり、また、現実には見ることのできない事象や授業時間では簡単にできない実験等をシミュレーションにより体験できる。
 そこで、シミュレーション機能を生かしたソフトウェアを開発し、効果的に用いれば、学習活動を活性化することができるであろうと考え、本主題を設定した。

U.研究のねらい

 学習への興味や意欲を喚起して、学習活動を活性化するためのシミュレーションによる教材内容の工夫や授業への導入の仕方を実践を通して明らかにする。

V.研究の仮説

 学習のねらいや教材の特質、コンピュータの機能等を踏まえたシミュレーションを教材に用いれば、学習への興味や関心を喚起することができ、学習活動を活性化することができるであろう。

W.めざす生徒像
 ・興味・関心を持ち、進んで学習に取り組もうとする。
 ・数学的に事象を考えようとする。
 ・概念、性質などを理解している。
 ・既習知識や表現・処理方法を生かし、筋道立てて考える。

X.学習活動を活性化するためのソフトウェア開発の観点(基本的な考え)

 学校現場にとっては、コンピュータという教育機器は新奇性があり、それが秘める多くの可能性を活用することが期待されている。コンピュータ利用は学習活動の活性化に欠かせない「意欲・態度」に効果があるといわれる。しかし、幼いころからゲームやTVなどを通してコンピュータに接するなど、その最新の技術を駆使したものに日常的に接している生徒たちにとっては、コンピュータはすでに新奇性を失いつつあるといえる。つまり、「意欲・態度」に効果をあげるためには、単にコンピュータを使用するだけでなく、学習内容と生徒の実態を考察し、コンピュータの特性を生かすことが大切である。
 そこで、次のような観点に配慮をして、数学科における学習活動を活性化するのに適したソフトウェアを作成した。

1.学習意欲を育てる
 学習意欲を育てるには、「おもしろい(興味・関心)」「わかりやすい(理解)」「そうか(発見)」等の生徒の心を揺さぶる要素を満たさなければならない。コンピュータの利用形態には、ドリル学習型・解説指導型・シミュレーション型・情報検索型・問題解決型等があるが、シミュレーション型がこれらの要素を満たしやすいと考え、シミュレーションソフトウェアを取り上げた。

2.数学的な見方・考え方のよさを感得させる
 数学的な見方・考え方は、学習指導要領の改訂で重要視されているように、数学科教育の根幹をなすものである。したがって、ソフトウェアの開発及び選択においては、教材研究を行い、その学習内容の持つ数学的な見方・考え方に十分配慮しなければならない。また、その能力を育てるためには、そのよさに触れることが大切である。そこで、様々な数学的なアイデアや考えの進め方に関する要素をソフトウェアに持たせるようにした。

3.理解を深める
 単に生徒の興味・関心をひいたり、コンピュータによる学習が間接経験に止まったりして、数学的な事象の性質や法則・概念等を実感を伴った理解にまで高められないのでは、学習活動を十分に支援することができたとはいえない。また、学習内容を理解にまで高めるには、学習活動に対する意欲を持続することができるように配慮しなければならない。そこで、各領域の内容を総合的したり、日常生活など親近感をもつ事象と関連づけた課題を設定したりして、数学の有用性に気づくことのできる内容を扱うとともに、変化に富んだ学習活動が行えるようにした。

4.豊かな思考活動を支援する
 豊かな思考活動を行うには、事象を数学的にとらえて、式・表・グラフ・図・モデルなどに表現したりして、その事象を多角的に、そして、深く考察することが大切である。また、思考の過程においては、思考実験や帰納、演繹などの考えを多く用いることによって思考活動が豊かになる。そのためには、生徒一人一人がじっくり考えたり、その場ですぐに思考実験を行うための時間の確保は欠かせないものである。時間を惜しまないで成功や失敗を繰り返す経験も必要ではあるが、煩雑さが理解や創造的な思考活動の障害のならないようにする必要がある。そこで、学習内容のねらいに配慮し、その場で考えたことを実験したり、表現したり、処理したりすることが容易にできるようにした。

5.コンピュータのもつ機能を活かしている
 授業のねらい・学習内容とコンピュータの機能・特性とを照らし合わせ、授業に有効である場合にコンピュータを用いるというように考え、教師の説明で十分に理解できることや実際に実験や観測ができることをシミュレーションだけで済ませたりすることのないように配慮し、実際の事象を最適に提示したり、実験することが困難なものあるいは不可能なものをコンピュータ内でそれを模擬的に実現してその結果を画面などに表示したりするようにする。

Y.開発したソフトウェアの内容と実践例

1.開発したソフトウェア名
 (1) 「立体の切断  (1年)」[F-BASIC386使用]
 (2) 「標本平均   (3年)」[F-BASIC386使用]
 (3) 「標本調査   (3年)」[F-BASIC386使用]
 (4) 「立体の切断  (1年)」[VisualBasic Ver.5使用]

2.開発方針
(1) 「立体の切断  (1年)」

@基本的な考え

 図形領域においては、その概念や性質の理解を図るために、身の回りに存在する具体物そのものを視覚的にとらえたものでなく、抽象化したものを扱う。また、小学校では、操作的な活動や直観的な扱いが中心であるが、中学校では、しだいに、数学的推論の理解と論理的に表現する能力の育成が中心となってくる。
 しかし、空間図形については、平面図形に対して概念形成が遅れがちなため、操作的な活動や直観的な扱いが中心となり、空間図形の平面上での図表現の技術的な面や応用的な面に深入りするのではなく、必要とされる空間図形の特徴をどのように表現するのかという点に焦点を当てて学習することとなる。
また、図で表現する能力を育成することによって空間概念を豊かにするができる。したがって、空間図形を平面上で表現する活動については、深入りをせず、平面上で図表現されたものを扱ったり、図形の特徴を調べるために立体を切断する活動などを中心に行う。
 立体の切断は、実物を正確に切断することが難しい。そのために、切断した模型を使用することが多くなるため切断方法が固定化すること、生徒自身が切断しても切断面の形状を確認しにくいことなどの課題がある。
 そこで、このように実物を用いての実験が困難なため、コンピュータを用いてシミュレーションを行えば、これらの課題を解決することができ、より豊かな空間概念を形成することができるのではないかと考え、本ソフトウェアを開発した。

Aソフトウェアの現状と課題

 立体切断シミュレーションに関係する市販及び公開されている自作ソフトウェアのもつ機能の概要は以下のとおりである。
  ・対象とする立体は、立方体のみに限定している。
  ・特定点を通る切断を選択するか、特定の切断の解説指導型である。
  ・立体を切断し、回転して、立体の形状や切断面の形状を理解する。
  ・立体を移動、回転させ、見取り図、立面図、平面図の関係、あるいは、CADソフト
   ウェアのようにパースと3面図を表す。
  ・立体の見取り図と展開図を表す。

 このようなソフトウェアを授業に使用することにより、立体切断への理解を深めたり、興味・関心を高めることができるが、次のような課題がある。

  ・通常、生徒に配布されるプリント教材は、見取り図であるため、回転することによっ
   て形状を確認するソフトウェアと図形の表現方法が異なるため理解しにくい。
  ・切断面の形状を確認するためには、切断面に対して垂直な方向から見なければならな
   い。そこで回転させ機能を持たせることによって、それを補おうとするものが多いが、
   速く正確に目的とする回転をさせるのは困難である。あるいは、およその形状の確認
   を目的としているだけで、正確に回転させるのは不可能なものもある。
  ・基本的には立方体の切断だけで十分であるが、より切断への理解を深めたり、空間概
   念をより豊かにするためには、より多くの立体が扱えることが望ましいが、扱えるデー
   タに汎用性がないものが多い。
  ・特定点を通る切断や特定の切断を演じるだけであり、VTR等を使用するのと大差が
   なく、コンピュータの機能を生かしていない。
  ・生徒が自分で、切断点を選択できないため、自分の考えを生かしたり、確認すること
   ができない。
  ・CAD等の立体を表示するソフトウェアは、豊かな空間概念を必要とするため、扱い
   が困難である。

Bソフトウェア開発の視点

 現在のソフトウェアの現状と課題を踏まえ、次のような機能を盛り込んだソフトウェアを開発することとした。

  〇扱えるデータに汎用性を持たせる。
  〇切断面に対して垂直方向からの表示を自動的にする。
  〇切断点を自由に選択できる。
  〇目的とする切断方法を記録できる。
  〇切断方法を連続表示できる。
  〇立体を自由に回転できる。
  〇プリント教材と一元化ができる印刷機能を持つ。 
  〇見やすくするために拡大縮小機能を持つ。
  〇視覚的に形状確認しやすいようにグリッド表示機能を持つ。
  〇数多くの立体が簡単に選択できる。
  〇パース上で切断点を指定できる。
  〇切断点を立体の辺上の等分点に自動補正する機能を持つ。
  〇切断面の形状を数量的に確認できるようにその辺の長さと角の大きさを自動計測し、
   表示する機能を持つ。 
(2) (略)
(3) (略)
(4) (略)

3.主なソフトウェアの内容とその活用例

 開発したソフトウェアの有効性を検証するために、授業実践を行った。以下、これらの事例の概要を記述する。

(1) 「立体の切断  (1年)」

@課題

 立体を実際に切断する場合では、水を容器に入れる場合には、微妙な水量調節が難しい。また、実物を切断する場合には、切り口をきれいな平面にするのが難しいため、切断面と立体の面との交線、切断面と立体の辺の交点が、同一平面上にあるか否かが、確認できない。立体模型を作成し、切断するためには多くの時間が必要であるため、多様な場合の切断が困難である。

Aソフトウェアの概要
 〇ソフト名「3DCUT Ver.2」(FM-TOWNS)

 立体を回転パース、切断面垂直パースの2つから表示する。単なる表示だけでなく、立体を平面で切断し、その切断状況を表示する。立体を自由に回転させたり、切断面の形が正確に判断できるように自動的に切断面に対して垂直方向からみることができる。26個の立体を登録し、それぞれ1〜20の切断面の位置を連続的に簡単なアニメーションのように表示することができる。1つの立体につき10の動きを登録できる。プリント教材との連携が図れるように、画面ハードコピー機能を付けた。

自作[F-BASIC386使用]
平成7年度(財)学習ソフトウェア情報研究センターソフトウェアコンテスト優秀賞受賞

B授業展開
 題材名「立体の切断  (1年)                                                 

学習内容・学習活動

時間

支援上の留意点

1.立方体の3頂点を結び、切
 り口の形が正三角形になる場
 合の切断について考察する。
   課題を知る。         
   切断方法を考える。   
   実物を切断する。     
   切り口の形を確認する。
  (実物→3DCUT)
5分
 事前にグループごとに立方体を作成させて
おく。                                
 課題提示にあたり、3Dアニメーションを示し、興
味・関心を持たせる。(DoGACGA)  
 切り口の形は、実物だけでなく、上面・正
面・側面の図を使い、合同な図形の辺に気づ
かせる。実物の切断は、できればグループご
とに行いたいが、時間の都合等で困難な場合
は、教師だけが行う。                   
 切り口は、切断面と立体の面との交線によ
って決まることに気づかせる。           
2.立方体の2頂点を固定し、
 1つの頂点を移動させ、切り
 口の形の変化の特徴を調べる
   プリントに切り口を記入
   する。               
   3DCUTで切り口の形
   を確認する。         
   切り口の形がそのように
   なる理由を知る。      
   3DCUTで切り口の形 
   の変化の特徴を調べる。
20分
 パースに3つの切断点を記入したプリント
(画面ハードコピー)を配布し、パースに切
り口を記入させる。                    
 効率良く短時間で行うために、切り口の形
の確認は、3DCUTで行う。正確な形を描
くにするために、切断面をクリックして、切
断面を垂直方向から観察する。           
 時間の余裕がある場合は、グループごとに
実物を切断する。                  
 3DCUTで連続表示し、変化の特徴を調
べる。 
3.様々な立体の切断を行い、
 切断への理解を深める。    
   立方体の切断により、五
   角形や六角形もできるこ
   とを知る。           
   直方体など様々な立体の
   切断を行う。         
20分
 生徒が正確な切断を行うのは難しいため、
切断方法を記録しておいたものを用いて切断
させる。その後に自由に任意の切断をさせる
 操作が困難な生徒は、記録してあったもの
の確認だけをさせ、思考の混乱を避ける。 
 立体の切断における直観力や想像力を伸ば
すことに主眼を置く。                   
4.立方体の切断を中心に、立
 体の切断の学習のまとめを行
 い、立体の切断への理解を深
 める。     
5分
 切断と立体の面の交線が切り口になること
面の位置関係、面数などと切り口の形との関
係を、立方体の切断を3DCUTや実物模型
を使って学習を振り返る。
(2) 「標本平均   (3年)」 @課題

 様々な母集団において、何回も標本平均を求め、その抽出を算出したり、それをグラフ化するためには、多くの時間と技能が要求される。

Aソフトウェアの概要
 〇ソフト名「標本平均」(FM-TOWNS)

 コンピュータのランダム機能を使い、身長・体重・年齢のデータを100個作成する。自分やランダム機能によるデータ抽出などを行い、自動的に標本平均や標本平均の平均を算出したり、グラフ作成を行う。

自作[F-BASIC386使用] 平成6年度(財)学習ソフトウェア情報研究センターソフトウェアコンテスト奨励賞受賞
B授業展開
学習内容・学習活動

時間

支援上の留意点

1.標本平均の求め方を知る。
3分
 前時の標本調査の例を想起させ、標本調査
によって推定する方法を用いることの必要性
に気づかせ、課題意識を持たせる。
2.標本平均から母集団の平均
 値を推定する方法を知る。
12分
 実験の回数を多くするにしたがって、相対
度数が一定に相対度数の関係値に近づいてい
くことに気づかせる。本校第3学年の資料を
用いることにより、活動への意欲を持たせる
電卓の使用を行わせ、学習の効率化を図り、
思考活動を高めさせる。              
3.コンピュータを利用して、
 標本平均を求める。       
  ソフトの使用方法を知る。
                          
                          
  自分で任意にデータを選択
  する。                 
                          
                          
  ランダム機能を使い、様々
  な資料において、数多くの
  実験を行う。 
3分



7分



10分
 任意にデータを選択して、標本平均を求め
る方法を気づかせる。                   
 2通りのグラフ表示の意味を理解させ、実
験を通し、実験回数と標本平均の平均値と母
集団の平均値との関係の理解を深めさせる。
 机間巡視を行い、個別指導を行う。ヘッド
セットは使わず直接、生徒に話しかけるとい
う人間的接触を取り入れることによって、生
徒に対する「強化」を与える。           
 コンピュータのランダム機能と自分が任意
に選択するのと相違がないことに気づかせて
から、一人一人に操作させる。何度も実験さ
せ、標本平均の理解を深めさせる。       
4.標本平均の求め方やその意
 味を実験結果から確かめる。
5分
 コンピュータの操作で終わらないように、
標本平均の求め方と実験の意味について振り
返らせる。
5.練習問題を解く。
8分
 電卓を使用して、計算させ計算方法を理解
しているかを確認する。
6.本時のまとめとする。
2分
 実際に標本平均を用いている場面を例にあ
げ、統計的な見方・考え方を伸ばす。
(3) 「標本調査   (3年)」 @課題

 標本から、全体の数量を推定する実験は、母集団にある程度の大きさが要求されるため、実際に行うのは困難であるため、授業では、十分に実験が行われないことが多い。生徒は「教科書に書いてあるから」「先生が言うから」とそのまま飲み込みがちであり、また、教師も数学的に検証された有効であるとされているからと考え、その有効性も、教師、生徒共に実感していないことが多い。

Aソフトウェアの概要
 〇ソフト名「標本調査」(FM-TOWNS)

 コンピュータのランダム機能を使い、魚・蝶などのデータ作成をする。自分で抽出した標本に色をつけ、コンピュータに任意に移動させる。移動後、標本を抽出し、その割合を調べ、母集団の全体を数量を推定する。その事象を多角的に、そして、深く考察する学習活動への支援をするために、式・表・グラフ・図などに表現する機能を持つ。コンピュータの計算機能を有効に使い、高速に、標本の数量調査、母集団全体の推定値の算出、グラフ化などを行う。

自作[F-BASIC386使用] 平成8年度(財)学習ソフトウェア情報研究センターソフトウェアコンテスト優良賞受賞
B授業展開
学習内容・学習活動

時間

支援上の留意点

1.標本から母集団全体の数量
 を推定する方法を復習をする
10分
 前時の学習内容を想起しやすいように流
図を掲示するとともにコンピュータでの実
験手順を明確にする。                 
 前時では行わなかった実験をコンピュー
タのシミュレーションで行いながら、標本
から全体の数量を推定する方法を説明し、
ソフトウェアの使い方を知らせる。
2.同じ母集団から標本を取り
 出し、母集団全体の数量を推
 定する。
10分
 コンピュータにより抽出した標本から自
分で計算して、全体の数量を推定し、実際
の数値と比較させる。
 交替でさせ、生徒一人ひとりに実験をさ
せる。 
3.同じ母集団から複数回、標
 本を取り出し、母集団全体の
 数量を推定する。
20分
 コンピュータのグラフ機能を用いて、視
覚的に実際の全体の数量や標本からの推定
推定値の平均との関係を表す。
 生徒一人一人にいろいろな場面の実験を
数多く行わせる。
4.学習経過をもとに標本から
 母集団全体の数量を推定する
 方法を確認する。
10分
 流れ図を用いて、学習経過と実験結果を
もとに標本から母集団全体の数量を推定す
る方法を明確にする。
 実験を終えての感想などをまとめさせ、
標本調査を有効性と有用性への自覚を高め
る。
(4) 「立 体 の 切 断(1年)」 @課題   (1)の@に同じ Aソフトウェアの概要  ○ソフト名「CUBE CUT」             (Windows95)

 「3DCUT Ver.2」とほぼ同等の機能をもつ。ただし、立体は立方体のみに限定。切断点の位置を記録することはできない。陰線処理、陰面処理に対応。      

自作「VisualBasic Ver.5使用」
B授業展開  (1)のBに同じ X.成果と今後の課題

〇『立体の切断 』
 以前は画面ハードコピーを使わず、コンピュータだけで切断を行っていたが、画面ハードコピー機能を付加し、プリント教材と同じ画面で切断の確認が行ったところ、「わかりやすい」という声が多く聞かれるようになった。コンピュータによる切断により、隠面との交線も切り口とすることに気づき「ここも切れるのか」などの驚きの声も聞かれた。
 切断面の形状を視覚的に捕らえ、直観的に分析する能力を養うことができたが、辺の長さと角の大きさの自動計測機能により、確認することができ、自信を持たせることができた。
 当初、パースから立体の形をイメージするのにとまどっていた生徒が多かったが、自由に回転することにより、様々な立体のパースが1つ表示されると「これは〇〇の形だ」とすぐに反応が返ってくるようになり、立体に対する直観力や想像力の育成の効果があった。

〇『標本平均  』
 生徒一人一人が、実験を効率良く行うことによって、思考活動に十分な時間をかけることができた。また、自動的に計算される標本平均とそのいくつかの平均をグラフ表示することにより、視覚的に実験結果を捕らえたり、自分の考えたことを短時間で何度も検証することができた。意欲的な学習態度、標本平均の考え方の習得、標本平均に対する理解に成果があったとする感想が全員からあった。

〇『標本調査  』
 日常生活における具体的な場面を取り上げることによって、学んだことを学習や生活の場に活用していけるという有用性に気づいたり、コンピュータによる支援による効果的な実験を行い、その結果に基づいて考察したりすることによって、より深い、実感を伴った統計的な見方や考え方を身につけることができた。効果音やアニメーションにより、多くの生徒が実験に引き込まれていった。

 以上のように、シミュレーションの導入によって、生徒の心を動かすことができ、興味・関心を持って課題を追及し、数学的な性質を見いだしたり、数学的なよさを感得するなど、学習活動において効果的に活用できることが確かめられた。また、授業後もコンピュータを用いた授業に強い関心を抱く生徒が多い。そこで、さらにコンピュータの持つシミュレーションを始めとする様々な機能を活用した授業を行うことにより、より一層、学習活動を豊かにすることができるものと考える。

<参考文献> 

 文部省  『中学校数学指導資料 学習指導と評価の改善と工夫』大日本図書 平成5年
 文部省  『情報教育に関する手引き』 ぎょうせい    平成2年
 片桐重男 『数学的な考え方の具体化』『問題解決過程と発問分析』 明治図書 1991年
 教育調査研究所 『教育展望 第40巻第9号』     1994年