平成9年度情報教育指導者講座 中学校・数学(神奈川県)

平成9年10月3日  10時50分から12時00分


「コンピュータ利用と著作権」


成蹊大学 教授 紋谷 暢男


◆はじめに
 法律と自然科学は異なり、憲法解釈のように社会科学では、1+1=2というように答えはひとつとは限らない。結論が定まっているならば、裁判官はいらない。よりどころは最後は法律の1字1句であり、条文というのは重要である。著作権情報センターで無料で著作権の解説する本が配布されている。
 「他人のものは盗んではいけない(10年以下の懲役)」「他人の著作物を盗んではいけない(3年以下の懲役)」、著作権侵害は最近100万円以下の罰金が500万円以下の罰金に変更された。
 ある県では、ソフトの違法コピーをし、莫大な賠償金を支払った経験から、BSA(Business Software Assosiation)という内部告発システムを日本にも導入した。日本にはなじまないと思われたが、最初1万円、そして、15〜16万円という額がもらえるため、上手く機能している。

◆著作権法の目的
 著作権法の目的は、文化的資産の保護を目的としている。コンピュータは日本では、当初、産業であるから異なるのではないかという見解の方もいたが、産業でも技術の著作権(特許権)は重要であり、文化とは産業を含んで考えるようになった。そして、プログラムも著作権に保護されるようになった。

◆著作物
 著作物に以下の4つがある。

○一般的著作物 ○2次的著作物(翻訳(そのままの物は認められない)・編曲・変形等の翻案したもの、         あるものをもとにしているが創作性のあるもの。2次的著作物を利用し         たい場合は、2次的著作物の作者と一般的著作物の許可を得なければな         らない。) ○編集著作物 (選択と配列性がある辞書等。) ○データ著作物(選択または体系的な構成。日本では編集著作物と別にしているが、外国         では編集著作物に入れていることが多い。)


 小説は紙に書いても、口で言っても、著作物となる。電話帳は思想・感情は表れていないため、思想または感情の創作的表現でないので、著作権に守られない。国では、本のタイトルなど程度では、感情が表れにくく、俳句程度になれば、著作物として認められる。創作性に対する認識は国により異なり、ドイツでは独創性を重んじる。同じ経験をして、表現の創作性があれば、同じ内容のものであっても、著作権は生じる。
 講演も著作物である。パントマイム等も含め体から表れたもの(頭のなかで考えているだけではだめ)は著作物と日本で考えている。アメリカでは、媒体を重要視している。著作物は作品性ではなく、人間が作ったものすべてが著作物であるといえる。言語(モースルス信号・コンピュータ言語によるものもここに含まれると考える人もいるが特にコンピュータ関係は誤解を招くことを防ぐために別に扱われる、落語、シナリオ等)・音楽・美術・地図・図形・プログラム等が著作物である。勝手に著作物に手を加え、翻案すると著作権侵害になる。

○共同著作物(分離して独立できないもの。座談会など。) ○共有著作物 ○結合著作物(分離して独立できるもの。歴史著書で古代・中世・現代というように分担        して書いたりしたもの。体系的に書かれているとしても、その一部分であ        れば、その著者に著作物の利用許可を得ればいいが、体系的に一部分を利        用する場合は、個々の著者と編著者の許可をえなければならない。)


◆著作権
 著作権は無法式主義である。審査も出願もない。特許権は設計図を使ってものを作ると侵害だが、著作権は、設計図のコピー侵害となる。
 Softic(ソフトウェア情報センター)でソフトウェアのライセンスが得られ、中身の概要を公表することや、他の人のものの概要も登録されているために知ることもできる。
 絵を買ってきて一般に公開する形で展示すると問題になることがある。普通、絵を購入する場合は、絵の所有権を得るだけであるため、展示権等までは取得していないので問題がある。
 作品や製品を作る場合、似ていても著作権上は問題ないが、盗んだ場合は著作権上、問題がある。特許権上は似ていても問題がある場合がある。
 コンピュータ外部記憶装置に記録にする場合でも、著作権上は許可なしで行うことはできない。その場合は複製権の侵害になる。デジタル化する場合も複製の問題が生じる。複製には許諾が必要である。
 契約とは、日常行っている行為である。電車に乗る際に切符を購入する場合、物を購入する場合など、数多くの場面で契約が成立している。しかし、立証する場合には、書面での契約が望ましい。
 校歌をWEB上で公開する場合、作詞・作曲をした人からの権利を購入していないと問題が生じる。演奏をしてもらったものを公開するのであれば演奏権、それを録音するために複製権、さらに公衆送信権等、様々な権利に配慮しなければならない。従って、多くの権利を購入しておかなければならない。
 また、複製を行う際には、同一性保持の問題があるため、勝手に内容を変えたりしてはいけない。翻案権の侵害でもある。同一性保持については、意に反するか否かについての判例が分かれている。
 著作権とは、財産権を含むか否かについても見解が分かれているため、契約時に留意しなければならない。

◆著作権の保護期間
 著作権は公表から50年まで存続する。しかし、開始は構想から始まるのであって公表からではない。普通の著作権は死後50年である。

◆著作権の主な制限
○私的複製
 人数が多い場合を対象とする複製は、たとえ学校でおいても認められない。認められるのは私的複製である。日本では、文書等については当分の間、私的複製が許可されている。しかし、音符等はできない。日本では、部分的に私的複製が許可されているが、国によって事情がことなる。

○図書館等による複製
 司書がいる図書館でなければ複製ができない。また、複製は利用者の申請により、図書館側に複製してもらわなければならない。

○引用
 引用する場合は、主と従があるはずであり、主の部分と従の部分を明確に分けなければならない。

○学校その他の教育機関における複製
 利益を侵害する複製(問題集・ワーク等)は許可されていない。雑誌の解説を一部コピーする程度ならばよい。

○営利を目的としない上演、演奏、上映、有線放送、公の伝達、貸与
 営利を目的としない場合も、有料化の動きがヨーロッパ諸国ではあり、日本でも変わっていくことが予想される。

○プログラムの著作物の複製物の所有者による複製、翻案

◆参考資料
 「コンピュータ・ソフトウェア管理の手引〜学校編〜   文化庁」が全国の全学校に配布されているので、参考にすると良い。